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2005年01月24日

「救援」429号(2005年1月)

救援連絡センターの月刊紙「救援」 429号(2005年1月)に掲載された前田 朗・東京造形大学教授の記事を紹介します。(転載許可をいただいています)
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平和運動の新しい風   無防備地区宣言運動

             前田 朗(東京造形大学)


大阪と枚方からの風

 無防備地区宣言をめざす市民運 動が徐々に広がり始めた。一一月二〇日、朝日新聞は「世界にない戦争非協力のまち 高い壁でも市民は模索」と報じ、一二月一六日、東京新聞は「無防備地域 宣言 全国各地で市民運動 草の根反戦新しい風」という特集記事を掲載した。

 地方自治体に無防備地区宣言条例の制定を求める住民運動に、二〇〇四年にチャレンジした のは大阪と枚方の市民だ。

 自治体に条例の制定を求めるためには有権者総数の五〇分の一の署名を一ヶ月間に集める必 要がある。大阪市では四月二四日からの一ヶ月で必要な四万二〇〇〇を超える六万一〇四七筆の署名を集めて市議会に「大阪市非核・無防備平和都市条例」の制 定を求めた。枚方市では八月二七日から一ヶ月で必要数の三倍にあたる一万八六二一筆の署名を集めて「枚方市平和・無防備都市条例」の制定を求めた。残念な がら両市議会とも住民の請求を否決してしまい、世界初の無防備宣言条例はまだ実現していない。二〇〇五年初頭、荒川区と藤沢市の住民が一番乗りを目指して 走り出す。西宮、大槻、大津、奈良、国立、板橋など各地に運動が広がり始めた。

 一九七七年のジュネーヴ諸条約第一追加議定書第五九条一項は「無防備地区を攻撃すること は、手段のいかんを問わず、禁止する」とし、同二項は「紛争当事者の適当な当局は、軍隊が接触している地帯の付近又はその中にある居住地区であって敵対する紛争当事者による占領に対して開放されているものを、無防備地区と宣言することができる」としている。無防備地区の条件は四つである。

a すべての戦闘員が撤退しており並びにすべての移動可能な兵器及び軍用設備が撤去されていること。

b 固定された軍事施設の敵対的 な使用が行なわれないこと。

c 当局又は住民により敵対行為 が行なわれないこと。

d 軍事行動を支援する活動が行 なわれないこと。

 つまり、軍隊のない地区である。軍隊がいなければ、相手国にとっても攻撃する理由がない。国際法上の武力行使は敵軍の戦闘能力を低減させ、自軍が優位に立つことを目指すものである。 敵軍が存在しないところで戦闘は意味を成さないから、発砲なしに占領し、占領行政を行なって平穏と市民生活を守る義務がある。無防備地区を攻撃すれば軍事 目標主義にも反し、民間人に対する攻撃や民用物に対する攻撃となるから戦争犯罪に当たる。

 同四項は、紛争当事者の適当な 当局が「敵対する紛争当事者に対して」宣言を申し入れることとし、無防備地区の境界を特定し、通告を受けた紛争当事者は受領したことを知らせ、無防備地区 として扱わなければならないとしている。

 日本政府は二〇〇四年の一五九 国会においてジュネーヴ諸条約第一追加議定書を批准したので、日本で無防備地区宣言を行なう可能性が出てきた(従来、無防備地域という訳語が用いられてき たが、日本政府訳は無防備地区となっている)。


自治体の住民保護責任

 地方自治法第一条の二は、地方 自治体と国の役割配分を規定し「住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割」を定め「住民の身近な行政 はできる限り地方公共団体にゆだねる」「地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない」としている。日本国憲法第一条は国 民主権を掲げ、同九二条は「地方自治の本旨」を規定している。地方自治の本旨の基盤には住民主権が据えられなければならない。憲法第三章は一連の基本的人 権を列挙し、同第九七条は基本的人権の本質を「侵すことのできない永久の権利」とし、第九八条は憲法の最高法規性と条約誠実遵守を定めている。第九九条は 公務員の憲法尊重擁護義務を明示している。

 以上から自治体は住民の命と暮 らしに責任を有し、住民の福祉の増進を図らなければならず、自治体が武力攻撃の対象とならないように努力する責務がある。自治体は住民の基本的人権を保障 するよう努力し、最高法規である憲法を擁護しなければならない。

 もともと憲法第九条は、武力の 行使を永久に放棄し、陸海空軍その他の戦力不保持、交戦権の否認を掲げている。つまり「軍隊のない国家」である。従って自治体は憲法第九条とジュネーヴ諸 条約第五九条がともに示しているように軍隊のない地区を実現するように努力しなければならない。そのことが憲法の人権規定や住民の福祉にも完全に合致す る。

 国民主権を掲げる日本国憲法は 議会制民主主義という間接民主主義を採用しているが、同時に第一六条に請願権を明示している。地方自治法第五章は自治体有権者の直接請求として条例制定請 求を記している。国民主権に対応する住民主権の表現形態である。この観点からも無防備地区条例採択が要請されている。

 日本政府は、外交・防衛は政府 の専権事項であって自治体は無防備地区宣言をなしえないとか、仮に一般論としてはなしうるとしても有事法制・国民保護法を制定している以上これに反する条 例制定はできないとする。大阪・枚方両市議会は日本政府見解に従って条例制定を否決してしまった。

 しかし政府見解は誤りである。 第一に憲法には防衛が政府の専権事項であるという根拠がない。行政権は内閣に属するが、憲法第九条のもとで武力による防衛は認められない。第二に仮に防衛 が政府の専権事項だとしてもその手段・方法は憲法に合致していなければならない。第三に政府はイラク特措法をはじめとする違憲の法律を作り既成事実を積み 重ねながら、軍事化の一途を歩んでいる。憲法に即した政策に反対することは許されない。第四に国民保護法は国民を守らない。名称は国民保護法だが、実態は 戦時動員法である。武力攻撃事態となれば従来は住民救援活動の一翼を担ってきた自衛隊は住民救援活動を行なわない。自治体の責任で住民を保護しなければな らない。そのためにも無防備地区宣言は有効な選択肢のひとつである。

 二〇〇五年には無防備地区宣言 運動が大きく広がることが期待される。詳しくは前田朗「地域から平和をつくる無防備地区(地域)宣言運動」法と民主主義三九四号三章。

無防備地区宣言運動全国ネットワーク http://peace.cside.to/

投稿者 全国ネット : 23:31 | お知らせ | トラックバック (4)