文化財保護の無防備地域宣言〜ハーグ条約
     人には無防備地域宣言を!文化財には特別保護を!
                     
市民の知恵と力で自らの町を守ろう!

                      2005.11.12 無防備地域宣言運動全国ネットワーク事務局 
 以下の小論は2005年11月12日に京都市民の会で報告したものをまとめたものです。

 京都を平和の砦に!市民の知恵と力で自らの町を守ろう! 
                           
@戦争による文化財破壊・略奪と保護条約

 古今東西、戦争の中で人間だけでなく文化財もまた破壊、略奪など甚大な被害を被ってきた。1991年の第一次湾岸戦争ではイラクの文化財、メソポタミヤ文明の遺跡が米軍の攻撃等によって破壊された。そして、03年3月から開始されたイラク戦争でも同様の被害が出ている。03年5月、6月に実施されたユネスコのイラク現地調査によれば、バグダッド、バスラ(南部)、モスル(北部)の図書館・文書館の建物、設備は概ね破壊され、略奪を受けた。03年4月9日米軍によるバグダッド制圧の翌日、イラク国立考古学博物館が略奪を受け、楔形文字が記された最古の粘土板、初期コーランなど1万4千点にものぼる文化財、資料等が失われたことが判明した(後日、そのうち4千点は返却された)。また、米軍はナシリア近郊のウル周辺(=文明発祥の地,遺跡群が存在)に空軍基地、軍事施設を造成し、その地域を破壊してしまった。
 カンボジアでも内戦期間中、各軍が武器調達の資金源とするため文化遺産を売り捌いていた。アンコール寺院の浅浮き彫りもひどい損傷を受けた。アンコール遺跡は1992年世界遺産に登録されたが、略奪がいまだに続いている。
 このような戦争による文化財の破壊、略奪等をくいとめていくために、ユネスコによって一連の文財 保護の国際条約が制定されてきた。1954年「武力紛争の際の文化財の保護に関する条約」(ハーグ条約)と「第一追加議定書」、「文化財の不法な輸入、輸出及び所有権移転を禁止し及び防止する手段に関する条約」(1970年)、「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」(1972年)、「無形文化遺産の保護に関する条約」(2003年)等。その出発点となったのが1954年ハーグ条約であることは言うまでもない。この条約は、そもそもは第一次大戦で大量の文化財が破壊されたことを契機として、戦禍から文化財を保護することを目的として国際博物館事務局が1938年に作成した条約案を原型としている。
 1938年条約案は第二次大戦が始まったことにより日の目を見なかったが、戦後ユネスコが設立されたことによって、文化財保護に取り組む機運が高まり、この条約案を参考にしてハーグ条約が作成・制定されたのである。結成当時のユネスコは「人々の心の中に平和の砦を作る」という憲章を掲げ、理想に燃えて活動を進めていた。その活動の中でこの条約は生み出されたのである。
 1954年ハーグ条約は、その冒頭で「文化財が最近の武力紛争の間に重大な被害を被っていること及び交戦技術の発達のため文化財の破壊の危険が増大していることを認識し」(中略)「文化財を保護するため可能なすべての措置を執ることを決意し」て、制定することを明記している。そして、第3条で「文化財の保全」、第4条で「文化財の保護」を規定するとともに、第8条では「特別保護の付与」を定めた。これは文化財の「無防備地域」とも言うべきもので、一定の要件を満たす場合には、「動産文化財を武力紛争の際に防護するための避難施設」、「文化財集中地区」、「他の非常に重要な不動産文化財」を「特別保護の下に置く」というものである。その要件とは、(a)「大きい工業地区又は攻撃を受けやすい地点たる重要な軍事目標から妥当な距離に存在すること」、(b)「軍事上の目的に使用されないこと」の2点である。特別保護は、文化財が「特別保護文化財国際登録簿」に登録されることによって、その文化財に付与される。そして、登録された文化財に対しては敵対行為、軍事上の目的での使用が禁じられる(第9条)。
 京都は、「文化財集中地区」とも言うべき町であり、まさにハーグ条約第8条の「特別保護の付与」を受けるにふさわしい町であると言える。

A京都と文化財保護

 京都は平安京以来千数百年の歴史を有する古都であり、数多くの文化財が集中する町でもある。210件の国宝(全国の19.8%)、1543件の重要文化財(全国の13.7%)が市内に存在し、仁和寺・竜安寺・上賀茂神社・二条城など数多くの神社・仏閣・城が世界遺産として登録されている(「署名ハンドブック」参照)。貴重な文化財が集中・集積していることは明白であり、これを保全・保護し、後世に残し継承していくことは京都市民の責務でもある。
 そして、この責務を果していくべく京都市は、「世界文化自由都市」を宣言した。「全世界のひとびとが、人種、宗教、社会体制の相違を超えて、平和のうちに、ここに自由につどい、自由な文化交流を行う」都市たることを理想とし、それを実行していくことを宣言したのである(1978年10月)。非核平和都市 宣言とともにこの宣言についても、お題目に終わらせず、実効あるものにしていくことが問われている。 今、有事法制が制定され、武力攻撃事態、緊急対処事態の下での「国民保護」を図るために、「国民保護計画」の策定が自治体に義務づけられた。では京都府・京都市は、国民保護計画策定の中で、文化財保護をどのように位置づけ、具体化しようとしているであろうか?9月14日に開催された第2回京都府国民保護協議会では、京都府が出した京都府国民保護計画(素案)に対して、「京都ならではの大きな課題である観光客や文化財に対する対策が、計画素案に明記されており評価する」「『文化財の保護』では、文化財を守る事前の対策と被災後の対応策とが記載されているが、事前の対策がより明確になるように構成を工夫すれば」等の意見が出された。
 では計画素案は本当に文化財を保護するような内容になっているであろうか?確かに第3編「武力攻撃事態等への対処」の中で1項を起こし、第9章で「文化財の保護」を規定してはいる。しかし、その内容を見ていくと、「文化財の被災情報を速やかに市町村、文化財管理団体及び所有者等へ連絡。これらの機関・団体等は連携し、必要な措置を実施」、「武力攻撃災害により被災した文化財の保護の措置」、「『重要文化財に関する命令又は勧告の告知等』、『国宝等の被害を防止するための措置の施行』などの特例措置」となっている。計画素案は、基本的には武力攻撃を受けることを前提として、その上でせいぜいその被害を最小化するための措置を講ずることしか定めていない。これは隣の奈良県の国民保護計画と同じである。奈良県では、「東大寺の大仏について『大きすぎて移動は無理』と断念、破損した場合の修復支援に重点を移す方針を固めた」「県の担当者は『あとは被害のないよう祈るだけ』と、最後は神ならぬ仏頼みの構えだ」(産経新聞)。
 こんなことで貴重な文化財、世界遺産が守れるのであろうか?京都府にせよ、奈良県にせよ政府が制定した国民保護法の枠内でしか「文化財保護」を考えていない。しかし、その国民保護法―国民保護計画では、有事の際に避難をさせるのは「建造物を除く文化財」のみである。神社・仏閣などの建造物(=非常に重要な不動産文化財)は初めから除外されている(避難させることができないので除外することはある意味で当然とも言えるが)。国民保護法の枠組みにとどまる限り、有事の際に京都の世界遺産は守れないのである。これで京都市民の責務が果せるのか?「世界文化自由都市」たりうるのか?残念ながら否と言わざるを得ない。

B人には無防備地域を!文化財には特別保護を!

 京都の文化財、世界遺産を守るためには今こそハーグ条約(1954年)とその第二議定書(1999年)に加入する以外にない。1949年ジュネーブ諸条約が1977年の追加議定書へと発展させられることで、紛争下における文民保護規定が拡充されたように、ハーグ条約も1999年第二議定書でいっそう文化財保護の取り決めが強化された。第二議定書では、第7条で「攻撃における予防措置」が規定され、攻撃する時は目標物が保護された文化財ではないことを確認するためにあらゆる可能なことを行う、文化財への付帯的損傷を回避し、被害最小化を視野に入れて攻撃手段・方法を選択する等が明記された。第8条「交戦の効果についての予防措置」では、「軍事目標の近辺から移動可能な文化財を取り除くか、適切な現状維持のための保護を行う」「文化財の近くに軍事目標を設置しない」ことが規定された。そして、第10条で「保護の増強」が規定され、3つの条件を満たすならば文化財は強化保護の下に置かれることとなった。3つの条件とは、(a)それが人類にとって最も重要な文化遺産であるとき、(b)国内法で保護の最高水準を保証して守られているとき、(c)軍事目的に使用されず、軍用地を隠していないとき。また第二議定書では、違反者に対する刑事処罰についても定めている(ICC規程が制定されたことと符合している)。(注:第二議定書は2004年3月に発効している。現在の締約国数は32)
 京都の世界遺産、国宝・重要文化財にはハーグ条約及び第二議定書が適用されるべきである。(a)(b)の条件は満たしているからである。また(c)についても満たすことができるであろうからである。さらに、京都にある世界遺産、文化財の多くが木造建築物であり、戦火に非常に脆いことを考える時に、「被害の最小化」や「修復」では決定的に不十分で、攻撃を未然に防止する特別保護こそが求められているからである。ただ問題となるのは、ハーグ条約第8条の「特別保護の付与」を満たすための条件=「重要な軍事目標から妥当な(十分な)距離に存在すること」という規定である。京都市内には自衛隊基地が存在するからである。この「妥当な距離」は具体的に規定されていない。このために「特別保護文化財国際登録簿」への登録件数が増えなかったと言われている。しかし、文化財保護ということを真剣に考えるならばハーグ条及び第二議定書を日本は批准すべきであるし、京都の世界遺産、文化財、京都という町をまるごと特別保護対象として登録をすべきであることは疑いを入れない。そしてそのために自衛隊基地を撤去することも具体的日程に上せていく必要がある。今、京都で推進されている無防備平和都市条例制定を求める直接請求運動は、そのような機運を高め、文化財を守る平和の町をつくっていく上で大きな意義を有している。

 日本政府は、有事関連諸法を制定する過程で、国際人道法を国内的に適用させていくために二つの法律を制定した。「捕虜等取扱い法」「国際人道法違反行為処罰法」である。この「国際人道法違反行為処罰法」の中に、重要文化財破壊に対する処罰規定が挿入されている。日本は1954年ハーグ条約を批准していない、従って日本にはハーグ条約に基づいて特別保護を受ける文化財は存在しない、にもかかわらずこのような規定を設けているのである。国内犯に適用するのか、それとも国外犯に適用するのか国会の法案審議の中での政府答弁では曖昧にされたままで終わっている。しかし、審議の中で井上担当大臣は、「もし将来、日本がハーグ条約に加入するようなことがあり、そういったハーグ条約の枠組みで日本の文化財もこの重要文化財になれば、もとよりそういう面での関係も出てくる」(=日本の文化財を破壊した者を処罰する)と答弁している。国内法を「整備」しておきながら肝心の国際人道法には加入しない、このようなことがあってはならない。直ちに日本政府はハーグ条約、第二議定書に加入すべきなのである。
 小泉内閣の官房長官を務めた福田康夫氏は自分のホームページで、「国際社会から見た『文化国家・日本』の程度」という「オピニオン」を発表している。その中で氏は、「貧弱な日本の『交流』規模」(文化交流予算の貧弱さ、職員数の少なさ)を指摘し、「不名誉な文化財市場・日本」では、日本が盗難外国文化財の巨大ブラック・マーケットになっている現状を批判している。そして、結論として「ユネスコ条約に加入を」と呼びかけている。「ユネスコ事務局長を擁するわが国は、文化大国の面目にかけてユネスコ条約批准に向けて努力すべきである」と強調もしている。何やら天に唾の発言ではないかとも思われるが、傾聴に値する意見であることは確かである。ジュネーブ条約追加議定書を批准しておきながらハーグ条約を批准しないなどということはありえない。京都の運動には正当性も、展望も十分にあると言える。

 人には無防備地域を!文化財には特別保護を!(そしてジュゴンには保護区を!)これが私たちの運動のスローガンであり、これを京都(そして奈良)で実現し、国内の他の町へ、世界へと広げていくことが必要である。これこそが「世界文化自由都市」京都の課題なのではないだろうか。

C自民党新憲法草案と直接請求運動

 最後に、10月29日に出された「自民党新憲法草案」との関係で、この直接請求運動の意義を再確認しておきたい。「新憲法草案」は、単なる改憲ではなくまさに「新憲法」制定をめざすものとなっている。 草案の問題点は多岐にわたっているが、以下の3点を指摘できる。(1)現行憲法第9条2項の削除と「自衛軍」保持の明記。「自衛軍」は「国際社会の平和と安全を確保する活動」「緊急事態における公の秩序を維持する活動」を担うと規定。アフガン、イラク攻撃を行った米英軍と同じような活動を「自衛軍」は行うことになる。(2)基本的人権に対する重大な制限。第12条で「国民の責務」を規定し、「公益及び公の秩序」によって「権利」「自由」を制限。(3)地方自治の制限。自治体に国との相互協力義務が課せられる(第92条新設)一方、現行の第95条(住民投票)は削除。地方自治・住民主権を根本的なところで否定。グローバル化した資本の権益を守るために新自由主義的国家を構築することが目的であり、それに抵抗する民衆の権利、住民の主権は制限されることになる。 
 したがってこれに対決し、通さないための運動づくりを進めていく必要がある。その時、住民主権に基づき、住民の発案=イニシアティヴで平和をつくる、立法化を図るという運動は大きな意義を有していると言える。権力側が、ビラ入れ等に対する弾圧を強め、日の丸・君が代を強い、思想・表現の自由の自由すら踏みにじってきている時、権利を行使する運動の意義はいつにもまして大きい。


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