国民保護法は欠陥法〜国際人道法違反
     自衛隊の住民避難誘導に関する政府答弁および消防庁国民保護室見解批判

                     2006.9.24 無防備地域宣言運動全国ネットワーク事務局 

 1.ごまかしの政府答弁書

・阿部知子衆議院議員の質問主意書―自衛隊が紛争下において住民の避難誘導等に当たることの国際人道法違反(文民分離原則違反)の恐れの指摘―に対し、政府は「軍事組織が住民の避難誘導等に当たるとしても、これが軍事行動から生ずる危険から住民を保護することを目的としたものであることを踏まえると、このような活動が、直ちに国際人道法に反しているとは言えないと考えている」と答弁していた。要するに、国際人道法に違反する場合があることを政府は暗に認めた。
・また、消防庁国民保護室は9.15交渉で、無防備地域宣言運動首都圏ネットが「『住民を保護することを目的としたもの』であるか否かの判断は誰がするのか、紛争下ではその判断が難しいがために、追加議定書では軍民分離の徹底を規定しているのではないか」と追及したことに対し、私たちの指摘を事実上認めたうえで、「予め、国内法(国民保護法)でこのように自衛隊が住民の避難誘導に当たることがあることを明示しておけば、一定の効果を生むことになるのではないか」という噴飯ものの見解を示してきた。
・自衛隊を住民の避難誘導に当たらせることが国際人道法違反となることは日本赤十字社の井上氏(国際人道法担当)も既に指摘され、警鐘を鳴らされていた。その指摘を真摯に受け止めずごまかしで乗り切ろうとする政府の誤りは直ちに正す必要がある。

 2.ジュネーブ条約第一追加議定書は、「文民保護」についてどう規定しているか

・ジュネーブ条約第一追加議定書は、第4編「文民たる住民」−第1部「敵対行為の影響からの一般的
保護」の第6章で「文民保護」を規定している。その中で、文民保護を図るためにどのような規定を設けているかを見ていく。

 61条「定義及び適用範囲」―(a)で、「文民保護」の活動の内容・範囲について15項目を具体的にあげ、(b)では、「文民保護」組織について定義している。「(a)に規定する任務を遂行するために紛争当事者の権限ある当局によって組織され又は認められる団体その他の組織であって、専らこれらの任務に充てられ、従事するものをいう」

 62条「一般的保護」―第1項「軍の文民保護組織以外の文民保護組織及びその要員は、この議定書の規定、特にこの部の規定に基づき尊重され、かつ、保護される。これらの者は、絶対的な軍事上の必要がある場合を除くほか、文民保護の任務を遂行する権利を有する」

 67条「文民保護組織に配属される軍隊の構成員の及び部隊」―第1項で「文民保護組織に配属される軍隊の構成員及び部隊は、次のことを条件として、尊重され、かつ、保護される」と規定しつつ、その「条件」を具体的に列記している。

 (a)要員及び部隊が第61条に規定する任務のいずれかの遂行に常時充てられ、かつ、専らその遂行に従事すること。
 (b)(a)に規定する任務の遂行に充てられる要員が紛争の間他のいかなる軍事上の任務も遂行しないこと。
 (c)文民保護の国際的な特殊標章であって適当な大きさのものを明確に表示することにより、要員が他の軍隊の構成員から明瞭に区別されることができること及び要員にこの議定書の附属書T第5章に規定する身分証明書が与えられていること。
 (d)要員及び部隊が秩序の維持又は自衛のために軽量の個人用の武器のみを装備していること第65条3の規定は、この場合についても準用する。
 (e)要員が敵対行為に直接参加せず、かつ、その文民保護の任務から逸脱して敵対する紛争当事者に有害な行為を行わず又は行うために使用されないこと。
 (f)要員及び部隊が文民保護の任務を自国の領域においてのみ遂行すること。
 そして、最後に、「(a)及び(b)に定める条件に従う義務を負う軍隊の構成員が(e)に定める条件を遵守しないことは、禁止する」と規定している(駄目押し!)

・日本政府は、この規定を知ってか知らずか、国民保護法、自衛隊法に「文民保護」のための自衛隊の出動を規定しているが、それらの諸規定は上記のジュネーブ条約第一追加議定書の規定に適合していない。明らかに国際人道法違反である。

 3.国民保護法―自衛隊法の「住民保護」に関する規定

・国民保護法は、15条、20条で都道府県知事ないし市町村長が、国民保護のために自衛隊部隊の出動を要請することができると規定している。そして、63条では、「市町村長は、避難住民を誘導するため必要があると認めるときは、警察署長、海上保安部長又は自衛隊法第76条第1項、第78条第1項 若しくは第81条第2項の規定により出動を命ぜられた自衛隊の部隊等のうち国民の保護のための措置の実施を命ぜられた自衛隊の部隊若しくは同法77条の4第1項により派遣を命ぜられた自衛隊の部隊等の長に対し、警察官、海上保安官又は自衛官による避難住民の誘導を行うよう要請することができる」と規定している。

・そして、これに対応し、自衛隊法では、「第6章 自衛隊の行動」の項において、第77条の四に「国民保護等派遣」という規定を設けている。「長官は、都道府県知事から武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律第15条第1項の規定による要請を受けた場合において事態やむを得ないと認めるとき、又は(中略)、内閣総理大臣の承認を得て、当該要請又は求めに係る国民の保護のための措置を実施するため、部隊等を派遣することができる」。自衛隊の任務は、紛争下においては第一義的には侵害排除、外敵殲滅にあるのであるから、国民保護のための出動は、「事態やむを得ないと認めるとき」しかあり得ないことなのである。この点は正直な規定と言ってよい。

・問題は、国民保護法にも自衛隊法にも、国民保護のために出動する自衛隊を、A項で述べたジュネーブ条約第一追加議定書61、67条の規定に沿う部隊とすること、部隊であることとの規定が見当たらないことである。「国民保護」とは言っても、実態は、「防衛出動」(76条)、「命令による治安出動」(78条)、「要請による治安出動」(81条)のための部隊を、「国民保護」のために「振り向ける」ということなのであり、「専ら充てられ、従事する」ことではないのである。それは福井県美浜町における有事訓練が、武装自衛隊員、装甲車などを配備・配置して実施された事実、千葉県富浦町(現南房総市)での有事−避難訓練にも武装自衛隊員が出動していた事実を見るならば明白である。しかし、このような自衛隊部隊の運用は明白にジュネーブ条約第一追加議定書違反であると言わざるを得ない。

 4.結論―国際人道法違反の法に従って「国民保護計画」など策定する必要はない!

・ジュネーブ条約第一追加議定書67条の規定を満たす自衛隊要員・部隊でない限り、敵対国軍からの保護を受けることはない。従って、67条に規定する条件を満たさないままの部隊を使って住民避難等 に当たるならば、当該部隊は当然攻撃対象となり、避難住民には「付随的被害」が及ぶことになる。
 日本政府は本当にそのような部隊を使って住民保護ができると考えているのであろうか?それとも 軍・民は攻撃する時も、避難する時も「一体だ」、とでも考えているのであろうか?そうであるとするならば、日本政府・自衛隊は沖縄戦の悲劇を何ら教訓化していないことを意味するが。

・日本政府の意図がどこにあるかについて明確なことは現時点では言えない。しかし、現実に、先述したように福井県美浜町、千葉県富浦町などでは武装自衛隊と住民(子どもを含む!)が一体化した有 事訓練が実施され、これが有事訓練のスタンダードとされつつある。このような事態の進行を看過することはできない。また、市町村レベルの国民保護計画策定においても自衛隊員が参加し、自衛隊主導の計画づくりが進み、それがそのまま軍民一体の有事訓練へと結びつけられようとしている。このような動きをストップさせなければならない。自治体当局に、現行の国民保護法は国際人道法違反の法であり(少なくとも欠陥法であることは明白)、それに従う必要はないことを提起していくことが求められている。住民に紛争下で自衛隊といっしょに行動することが、自らの身を守ることであるとの全く誤った認識を定着させることは犯罪行為にも等しいからである。また、自治体当局への追及を行うだけでなく、この国民保護法を立法した国会、原案を提起した内閣官房の責任をも追及していく必要がある。

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