自衛隊の「国民保護派遣」は国際人道法違反の疑い
        民用施設密集地の自衛隊施設は国際人道法の原則に違反
 

  軍民分離〜国際人道法原則と自国民保護〜予防措置について
         日本赤十字社有事関連法・国際人道法担当者が重要発言

 
本年二月以来新潟県電子会議室での国民保護計画に関する討議がされていましたが、その中で日本赤十字社の井上忠男氏が注目に値する発言をされています。御本人の好意で当全国ネット・ホームページへの掲載を了解していただきましたので、その一部を紹介します。
  ※以下は、2006年3月13日に「新潟の国民保護に関する県民電子会議室」(新潟県危機管理防災     課所管)にて発言されたものです。

    
Re:国際人道法の的確な確保と自衛隊の協力の懸念について

  日本赤十字社の有事関連法、国際人道法等を担当しています井上と申します。
自衛隊の住民避難等への協力と人道法の的確な確保につき、気になる点をご指摘させていただきます。

  ○ 自衛隊の住民避難等への協力の懸念点

 仄聞しますところ、自衛隊に住民等の避難への協力を求める動きが自治体を中心に見られるとのことですが、こうした考え方は国際人道法(IHL)の基本原則に反する疑いがあります。

 IHLの基本原則は、軍人・軍事物と文民・民用物を明確に区別し、文民・民用物を軍事目標への攻撃の巻き添えから防ぐことがあります。したがって、軍の輸送車輌等で文民を避難させることは軍事目標への攻撃の巻き添えになる危険があります。これが平時の自衛隊の災害派遣と大きな違いです。
 したがって住民の避難、消防、応急手当等は,、非軍事組織である文民保護組織(Civil Defense)の役割であることがジュネーブ諸条約第一追加議定書に明記さています。
 国民保護派遣に自衛隊の「国民保護派遣」が規定されたのは、平時の災害派遣の延長線上の発想から、自治体が強く要望したために盛り込まれたようですが、本規定は、元来、住民を逆に攻撃の巻き添えにしかねない危険性を秘めています。さらに、この場合、IHLの規定から文民を輸送する軍用車輌に赤十字マークや文民保護マークをつけて保護することは禁じられています。
 戦時には軍と民を厳密に区別することが大原則で、軍隊の戦時の役割は、侵害排除にあり、文民の保護を求めるのは、戦時国際法の原則に逸脱するものです。
 IHLでは、軍の要員が文民保護組織に配属されることを認めていますが、その場合は恒久的に配属されるのが条件です。このような要員を自衛隊が戦時に配置できる余裕はないと思われますし、その場合でも軍の車輌等は使用できないでしょう。
 仮に自衛隊に文民の避難等に協力する状況があるとすれば、それは武力紛争の開始の前後が考えられ、実際に紛争が起きた後での協力は、IHLの原則に反し、文民が攻撃の対象になりかねない危険なものとなると考えられます。
  文民の避難誘導などの文民保護は、文民保護組織(消防、警察、自治体職員等が中心に構成される)によるべきであり、この分野への自衛隊の介入は、住民を攻撃の付随的損害から防止する『予防的措置」(第一追加議定書57条)を講ずる締約国の追加議定書上の責務に反することになりかねないと思われます。
 この危険性につき、以前、防衛庁にも指摘したことがありますが、「世論におされて」受け入れざるを得なかったのが現実のようです。
 自衛隊による住民保護を念頭に置かれている自治体の関係者の方々には、是非、この点の配慮をお願いしたいと思います。

  ○IHLの的確な確保と「予防的措置」について

  今回、政府が加入したジュネーブ諸条約の追加議定書は、締約国が、住民を攻撃の被害から守るために攻撃する側とともに、攻撃される側にも予防的措置を構ずべきことを要請しています。
 この視点から今後問題になるのが、住宅地、民用施設などの密集地に所在する軍事施設(軍事目標を構成する)です。市谷の防衛庁の近傍にはホテル、学校、商店、マンションなどが密集していますし、自衛隊施設に隣接して住民の居住地域が密集している現状が随所に見られます。これは明らかにIHLの原則に反するといえますが、戦後、60年、戦争をすることが理論上ありえなかった日本の現実、及び、国土の狭隘さなどから、IHLの視点を担保することなく現実の施設建設が先行してしまったためと思われます。
 「予防的措置」は、締約国の努力義務の性格もあり、直ちに違法行為とはいいにくい面もありますが、今後は、人道法の精神、原則に抵触するこうした現実を徐々に改善することが、議定書加入国となった日本に求められると思われます。
 

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